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私の価値観を変えた彼氏募集掲示板での出会い

 何事も効率重視だった私は、彼氏なんて自分の時間を浪費してしまう不必要な存在と考え、28歳になるまでずっと独り身でいました。彼氏募集をするための掲示板があるなんてことも知りませんでしたし、知った当初は「なんて非効率なことをしているのだろうか」と本気で疑問に思っていました。

 少し自慢になってしまうのかもしれませんが、私はそれなりに見た目はいいらしく、男性から告白された回数自体はそれなり以上にあります。ただ私のほうにそのつもりがなかったので、すべての場合において一言でバッサリとお断りしていました。そのことで同性に恨まれることもなかったわけではありません。


 転機になったのは28歳になって最初の冬。丁度クリスマスに差し掛かりつつある時期の週末のことでした。こういう性格ですから同性の友人というのもほとんどいない私は、しかしそのことをどう思うこともなくその日も自分の仕事を淡々とこなしていました。
 そんな私を友人と呼ぶ、そして私自身も珍しく友人だと思っている彼女から連絡が入ったのは、その仕事が片付いて帰り支度を済ませた頃。連絡の内容は「独り身同士飲まないか」といったものでした。
 私の職場は他所よりも年末の仕事納めが早く、丁度その日がその仕事納めの日でした。その日のスケジュールはもう何もありませんでしたし、それ以降も正月に実家に帰るくらいしかなかったのでそれに承諾の返事をし、近場の居酒屋で彼女と合流。

 彼女は少々酒癖が悪く、アルコールが入ると泣いたり笑ったりと随分忙しい人物なのですが、その日は普段以上にひどかったことを覚えています。席につくなり熱燗を注文した彼女は、一口煽るなりいきなり管を巻き始めました。その言葉をかいつまんで言うと「クリスマスが目の前に迫っているというのに彼氏がいないのがつらい」というもの。それを延々と泣いたり自虐したりしながら言うものですから流石に鬱陶しい。
 そのときです。以前どこかで聞いた彼氏募集掲示板の話を思い出したのは。このまま彼女を放置してより面倒なことになるよりは、そのくらいの軽い気持ちで彼女にそのことを話すと、当然というかなんというか強烈な食いつき方をしました。そのままさっさと登録を済ませた彼女を見て、さてこれで少しは平穏な飲み会になるな、などと考えていると。
「やっぱ1人じゃ怖いからあんたも付き合え」
 などと私の携帯を奪い取り勝手に登録作業を進め始めたではありませんか。流石に怒りましたが酔った彼女はそんな私をものともせずに自分のときと同じように、私の分の彼氏募集掲示板への登録を終えてしまいました。
 あとで消しておこう。今にして思えばその場で削除しておけば私の長年の価値観が変動することはなかったでしょう。いえ、そもそもその時点で、何らかの変動が起こっていたのだと思います。でなければ、彼女から携帯を取り返した直後に登録を削除していたでしょうから。あとで消しておこうという考えは、結局消さずにほったらかしにするか、そのことそのものを忘れるかのどちらかに辿り着くのですから。


 それからしばらくして。ああ明日は仕事始めかなどと携帯に保存しているスケジュールを調整しているときでした、すっかり忘れてしまっていた彼氏募集掲示板からの通知が届いたのは。
 なんでも私に連絡を入れてきた人間がいるとのこと。それを見てようやく消し忘れを思い出した私でしたが、どういうわけか削除には行かずにその通知を眺めていました。そのときの心境は恐らく「本当に連絡が来るのか」というささやかな驚きだったと思いますが、正確なことは思い出せません。


 それから半年。一体何が私の心境を激変させたのか。私はその連絡をよこした男性とお付き合いするようになりました。何かが起こってこうなったとしか言い様がないのが歯がゆいところではありますが。ただ、少なくとも今は、「まあ恋人というのも悪くはないかな」と思うようにはなっています。そういう意味では、あの日無理矢理彼氏募集掲示板に私のプロフィールを打ち込んだ友人には感謝しないといけないのかもしれません。

by yaritaidake | 2017-08-04 12:34 | 彼氏募集